2013年8月15日木曜日

ハノイへの旅②~30時間列車の旅

 

23:00 Sài Gòn駅発。
駅で売店で枕を売っていたのがおもしろくて、思わず購入。
5万ドン(約230円)の枕とともに乗りこむ。


満席だったソフトシート車両。上の棚は荷物でぎゅうぎゅう。
車内には液晶テレビも完備。 

前の席に座っていたおじさんも、ハノイまで行くとのこと。
飛行機で行かないの?という私の質問には、
「列車のほうがずっと安心だから」という答えが…。


車両の真ん中から、席が向き合うような並びになっている。
最初後ろ向きに発進したが、
中間地点に近いダナンで、進行方向に切り替わった。
(どんな風に切り替わったのかを見ていなかったのが悔やまれる。
その時は爆睡中でした…)


夜中、ほとんどの乗客が眠りにつき、車内も消灯したものの、
こちとら旅の始まりと、車内のディープな雰囲気に大興奮。
Mさんとひそひそおしゃべりしたりお酒を飲んだり。
やっと眠りについたと思ったら、夜が明けていた。
朝、きれいな空を見た。


6:00 最初の駅、Nha Trangに到着。
予定より30分の遅れ。

停車時間は5分程度。ちょこっとホームに降りる間もなく出発。
お客さんの降りた席にはちゃんと新しいお客さんが乗ってくる。
みんな、どこまで行くのかな。


車内ではカートを押したスタッフが、朝食を売りに来始める。
眠け眼の私にMさんが食堂車があるよと教えてくれた。
列車に乗るのは今回が初めてじゃなかったけれど、
なんと。食堂車があるとは知らなかった。
大興奮、再び。


朝食にPhở bò(牛肉のせフォー)を食べる。これがけっこう美味しかった。

食堂車が気に入り居座る私とMさん。
その間にもお客さんがひっきりなしに朝食を食べにやってきていた。
でも、多くの人がカートの車内販売のほうを利用している様子。
食堂車で食べるフォーやその他のプレートご飯より、
カートで売るお弁当のほうが安いらしかった。

おしゃべりとお酒と車窓からの風景を楽しみながら、
線路は続くよ、どこまでも。


7:55 二つ目のTuy Hoà駅に到着。
車窓には、田園風景が続く。

眺めているとつくづく思う。
この風景が、ベトナムの大部分なのだと。
サイゴンは、特殊な街なのだと。


9:45 三つ目のĐiệu Trì駅に到着。
時刻表より50分遅れ。

このあたりで私はまたうとうとし始め座席に戻る。
後で聞いたら、Mさんは食堂車に居座り続けていたらしい。

12:39 四つ目のQuảng Ngãi駅に到着。
1時間の遅れ。


15:00  五つ目のĐà Nẵng駅に到着。

再び食堂車へ遊びに行く。売っていた焼き鳥などを食べる。
となりに座っていたフランス人のおじさんと少し話す。
ダナンの海の美しさを、熱心に語る人だった。
車内ではこのように、私たちの他にも外国人がちらほらいた。



列車内をぷらぷらと探検していると、海が飛びこんできた。
カメラを取り出しバシャバシャやっていると、
同じく撮影に夢中のとなりのベトナム人のおじさんと目が合い、
「きれいだね~」と一緒に笑う。
「私は日本が好きだよ」と言っていたおじさんの顔と声は、
 なぜだかいまでもよく覚えている。
彼は仕事で来ていたダナンから、故郷ハノイまで帰るという。


食堂車に戻ると、車掌さん二人が休憩にやって来ていた。
左の彼はHuếの、右の彼はThanh Hoáの出身だと言っていた。
二人とも大学を卒業してからずっとこの仕事を続けていて、
日々、サイゴンとハノイとを往復していると言っていた。
疲れる?と聞くと、 「まぁ、多少はね」と答えた。
でもその笑顔は、自分の仕事が好きそうな人の笑顔に見えた。
年齢をたずねたら、二人とも私より年下だった。
私は"Anh"の呼び方をその場で"Em"に切り替える。
呼称の多いベトナム語ならではのユニークさだと思う。


17:30 六つ目のHuế駅に到着。 

あの子たちは何をしているのかな…と思ったそばから発車。
相変わらず、ほぼノンストップ。

ここでついに… 折り返し地点。

さすがに長い。疲れも出てくる。
だんだん日が落ちて、外が暗くなってきていた。
もう、あとは寝て、耐えるのがメインだろうか…と察する。

ここからは、だいぶすっ飛ばし日記。
線路は続くよ、まだまだよ。

18:50 Đồng Hà駅
20:30 Đồng Hới駅
00:32 Vinh駅


そして。そして。

日が昇り、外が明るくなるにつれて、
少しずつ少しずつ、車窓からの景色が変わってくる。
バイクで走る人が増え… 家や商店が増え…
ああ、いよいよハノイに近づいてきたんだなと実感する。
あとちょっと。あとちょっと。

車内でも、起きて荷物を整え始める人達、
いそいそと洗面台で歯磨きをする人達で、ガヤガヤ。

サイゴンから一緒だった、前の席のおじさん。
隣の娘さんとともに、降りる準備を始める。

いまは、安い航空券だってある。
正直、ソフトシートならそこまで値段が変わらない。
彼にとっては、安いからとか、速いからとかじゃないんだなぁ。
もしかしたら飛行機が苦手なのかもしれないけれど、
彼らは何十時間もかけて、こうやって故郷に帰るんだ。
私のような、トライ!という気もちとは、全然別の気もちで。
もっと色々聞いてみればよかったなと、
これを書いているいま、ちょっと後悔している。
 
その、ハノイに。


6:13  終点Hà Nội駅に到着。

着いた。着いたーー!
予定より約1時間45分の遅れ。
結果的に31時間近く列車に乗っていたことになる。
でも、このくらいの遅れで済むってすごくないだろうか?

疲労と、ようやくたどり着いた感動とで、大興奮、また、再び。
ハノイの街はすっかり朝の賑わいの様子で、
タクシーやバイタクのおいちゃん達が群がって来る。

*****

列車で旅して思った。
サイゴンとハノイは、やっぱり「近い」と言える距離じゃない。
人々の精神的な距離感は、やっぱり私にはまだまだわからない。
けど、飛行機のビューンという速さより、時間の短さより、
私はこの、くたくたになる、一日以上かかる距離感が、
サイゴンとハノイのそれなんじゃないかと思った。

もちろん、航空便が増えて、人々の行き来がしやすくなるということが、
決して悪いことじゃなくて、むしろ喜ばしいことだと感じてもいる。
でもそれは私たち外国人にとって喜ばしい、のではなくて、
この国の人たちにとって喜ばしいものであればいいと思う。
 
もう一つ。
車内の乗客達を見ていて感じたことがある。
みんな、列車のなかでも「生活している」ということ。

ベッドの車両を見に行ったとき。
あるベッドには、狭い小さなベッドに親子二人が折り畳むように寝ていた。
いつも家でもそうやって、寝ているんだろうなと思った。

ベッド車両は小さなスペースに分かれていて、
6つ(3段が2つ)、又は4つ(2段が2つ)のベッドが並んでいるのだけど、
そこを家族や親せきで貸し切って、10人近くの人がいたり。
何やってるんだろう?と覗き込むと、
トランプしたり、大事そうにチョコレート食べてたり、
お酒を飲む男達を横目に、女達がおしゃべりに花を咲かせていたり。

ああ、生活だぁ、と思った。
 
ソフトシートのお客さん達もそう。
朝になれば日の光とともに起きて、歯を磨き、朝ご飯をちゃんと食べる。
おしゃべりしたり、テレビを見たり、車内販売の新聞を読んだり。
昼になれば昼ご飯を食べて、昼寝をする。
思い思いに過ごす時間が圧倒的に多いけど、
みんな、自室でくつろいでいるみたいに見えた。
食堂車でビールで乾杯していた兄さん達もいた。
夕食を済ませたら、夜は消灯前には就寝。

多くの人がそういう過ごし方をしていて、
規則正しい生活リズムの、穏やかな暮らしっぷりだった。
それは彼らの、たくましさでもあるように感じた。

実際のところは、わからない。
私には、そんな風に見えたのだ。
もし次に列車で旅する機会があったら、
近くのお客さんと、もっともっと、話してみよう。
もっと、もっと。

でも。やっぱり。
列車で行けて、よかった。

一緒にチャレンジしてくれたMさんには、
心から、Cảm ơn と言いたいです。


(旅、続きます)


From Hem


0 件のコメント:

コメントを投稿